日本国憲法と自民党改憲案を確認する3 第2章 戦争放棄

陸上自衛隊観閲式 (陸上自衛隊HPより)

 自民党の改憲草案の核になるであろう「第9条」はどう変わろうとしているのか。それを容認するのか拒絶するのか、私たちの良識と判断に任せられるかもしれません。その時に備えて、現行の憲法と改正案を読み解きましょう。

このシリーズ作成にあたって(共通なので一回読んだらスルーして!)

自民党の憲法改正案が出されたのが平成24年。すでに6年前になりました。あれからいろいろな議論があったようですが、正直言うと一般市民のほとんど(含む私)は改正案をしっかり読んでいないでしょうし、そもそも憲法だってちゃんと読んだことなどありません。その後、公明党への配慮などもあり、かなりトーンダウンした「改憲4項目」が平成30年の自民党大会に出されました。
 ここでは、現行憲法と「改憲4項目」の前に出された平成24年版自民党の改正案を比較しながら、自民党の目指す未来を理解し、何が素晴らしいのか、何がヤバイのかを見ていこうと思います。
 ちなみに、私は「政権交代がないと政府が腐るのは否めない。」という理由で反自民ですが、自民党の政策そのもに全て反対しているものでもなく、このシリーズもできるだけ公平に見ていきたいと思います。

現行の日本国憲法は「戦争の放棄」

第二章 戦争の放棄
〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

日本国憲法

 ある意味この9条が日本を戦争から守ってきたとも言えるし、逆にこれがあるから日本がいつまでも国際社会での確固たる地位を築けない、独立国家と呼ぶには致命的な欠陥だと言われることもあります。
 9条だけ見ると「自衛隊」なんか持っちゃいけないみたいですが、これは「合憲である。」と解釈されています。しかし、「違憲である」という見解があるのも事実で、「自衛隊の憲法論議に決着をつけよう」という気持ちもわかります。
 現時点で「集団的自衛権」という同盟国への脅威を自国への脅威と見なす解釈が出てくるなど、解釈が一人歩きしている気配もありますので、きちんと考えることは必要かもしれません。

 では、自民党の案を見ると、さすがにここは「改憲を目指す党」である自民党の最重要ポイントですので、かなり頑張っています。

自民党の改憲案は

第二章 安全保障
(平和主義)
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

(国防軍)
第9条の2 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するために、内閣総理大臣を最高指揮者とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第1項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

(領土の保全等)
第9条の3 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

日本国憲法改正草案 自由民主党 平成24年4月27日

改憲案で何が変わるのか

自衛権の発動を妨げるものではない

攻めては行かないが、守るための武力は使うということを明らかにしました。ここは今でも自衛隊を持っているわけですから、実質的には現状と変わらないということもできます。これで自衛隊が存在する根拠を示したわけです。

9条の2 国防軍が登場

 10条としないあたりが「9条」をシンボライズしている感があります。自分が自民党の関係者なら「9条?ああ、天皇の項目が変わったんで、11条になりました。11から13までが「安全保障」になりまーす。と言って、逆に9という数字は気にしてないフリくらいしそうですが、自民党は堂々と「9条の部分をこう変えるのだ。だから派生して増えた部分も9条の2、9条の3なのだ。」と潔い主張です。

国防軍は・・・・国会の承認その他の統制に服する

「勝手に活動するなよ」ということでしょうが、気になるのは「その他の統制」とは何なのかということ。考えられるのは「第9章 緊急事態」という新たな項目と整合性を持たせる意味でしょうか。緊急事態の宣言は内閣が行い、場合によっては国会の承認は事後でも良いようです。緊急事態が宣言されると内閣が政令を出し、総理大臣がいろいろな判断をすることになります。」

緊急事態については、後日取り上げます。

国防軍は、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動を行うことができる

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 「国際的に協調」が何を指すかはやや曖昧ですが、外に出て活動することに道を開きました。ここでは一応「国連軍への参加」であろうと解釈しますが、アメリカがどこかに空爆をする時、その手助けをする場面もないとはいえないでしょう。
 ベトナム戦争時にこの内容で改憲してたら、戦争になってたかもと思うのは、考えすぎ?勉強不足?

国防軍は、公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる

 「公の秩序を維持」って、いろいろなことが想定できますが、暴動への対応も入るのでしょうか。警察機能と重なるとは思いますが、その住み分けはどうするのか、やや謎が深まる言葉です。天安門事件を中国政府は「公の秩序を維持する正当な行為」と位置付けていますが、日本もそうなったりはしないでしょうかね。
 「国民の生命を守るための活動」とは、災害時の救援活動をイメージしますが、「自由を守るための活動」とは何でしょうか。
 いやいや、そこまで深く考えずとも「生命や自由を守るのよ」でいいのかな?国の最高法規の文言ですから、ひとつひとつの単語に意味を持たせている気がするのですが。

国防軍に審判所を置く

 特に軍事機密に関する罪の場合は一般人の傍聴が可能な場所で裁判というわけにもいかないでしょう。だから一定の理解はできそうです。しかし、ここはあくまでも「国防軍内の誰がやった罪を、軍の中で審判する」ということで、「軍の誰かから受けた一般人の被害等を裁く場所」ではないようです。だから、例えば軍人(もはや自衛隊員ではない)が撃った流れ弾に当たったという事故は、その罪自体は軍の審判所、被害者の賠償は裁判所ということになるでしょうね。ややめんどくさい気もしますが、運用されてみないとなんとも判断がつかないですね。

国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し

 素朴な疑問、「国民と協力し」というのはつまり、国民は何をすればいいのですか?一緒に戦うのですか?
 もうひとつの素朴な疑問、現在保全できていない「竹島」「北方領土」の主権と独立を守るため、戦うのですか?
 これはとても大きな問題だと思うのです。憲法によって国防軍が作られ、領土を守るための自衛権を行使できるわけですから、「奪い返すしかないじゃないですか。」と言ってた若い議員さんと同じ考えということでいいのでしょうか。それとも、「今までのことはとりあえずチャラにして、ここからは先はやるよ。」という解釈をするのでしょうか。特に北方領土の関係者はどう思い、どうしてほしいのか聞きたいものです。

まとめ 戦争はしないが国防軍で国を守り、国際社会に武力としての貢献も行う

 「戦争の放棄」という章の題目が「安全保障」になったのは、軍を持ち国内外でその力を生かすことは「戦争放棄」という範疇を大きく越えたので仕方ないとも言えます。その分小項目の題に「平和主義」という言葉が用いられ、戦争の放棄をきちんと述べています。その意味では現行憲法から大きく変わるものではないでしょう。しかし、シンボルとしての「第9条は戦争放棄」というスローガンはやや薄れました。
 国防軍については、現実的には自衛隊がそのまま名前を変えるのでしょうから、いきなり規模が倍増することはないでしょう。しかし今度は憲法で保障された組織であり活動ですから、徐々に予算が増えていくだろうということは誰でも考えること。きっとそうなるに違いないと私も思います。
 さらに、国防軍創設後のアメリカとの関係についても議論する必要がありそうです。

 憲法で明らかになったとは言え、まだまだ各所の解釈や実際に事が起きたときの判断に意見の違いは出そうです。もっと詳しく議論しなければならない項目であることは間違いありません。

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