日本国憲法と自民党改憲案を確認する2 第1章 天皇

今まで本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。

天皇の存在が良いのか悪いのはいろいろな意見があるようですが、(失礼ながら)一個人としての平成天皇、皇后さまはたいへん尊敬しています。自分がその立場だったらあんな風に生きられないと思います。そえはともかく、天皇とは何なのでしょうか。憲法で振り返ってみましょう。

このシリーズ作成にあたって(共通なので一回読んだらスルーして!)

自民党の憲法改正案が出されたのが平成24年。すでに6年前になりました。あれからいろいろな議論があったようですが、正直言うと一般市民のほとんど(含む私)は改正案をしっかり読んでいないでしょうし、そもそも憲法だってちゃんと読んだことなどありません。その後、公明党への配慮などもあり、かなりトーンダウンした「改憲4項目」が平成30年の自民党大会に出されました。
 ここでは、現行憲法と「改憲4項目」の前に出された平成24年版自民党の改正案を比較しながら、自民党の目指す未来を理解し、何が素晴らしいのか、何がヤバイのかを見ていこうと思います。
 ちなみに、私は「政権交代がないと政府が腐るのは否めない。」という理由で反自民ですが、自民党の政策そのもに全て反対しているものでもなく、このシリーズもできるだけ公平に見ていきたいと思います。

現行の憲法を確認しよう

第一章 天皇

〔天皇の地位と主権在民〕
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
〔皇位の世襲〕
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
〔内閣の助言と承認及び責任〕
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
〔天皇の権能と権能行使の委任〕
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
〔摂政〕
第五条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
〔天皇の任命行為〕
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
〔天皇の国事行為〕
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
〔財産授受の制限〕
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

日本国憲法

いわゆる「象徴」という立場の天皇ですね。政治的には権限を持たないというのが第1章の重要な視点です。

自民党改憲案はどうなった

(天皇)
第1条 天皇は、日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、その地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
(皇位の継承)
第2条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
(国旗及び国歌)
第3条 国旗は日章旗とし、国歌は君が代とする。
2 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
(元号)
第4条 元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。
(天皇の権能)
第5条 天皇は、この憲法に定める国事に関する行為を行い、国政に関する権能を有しない。
(天皇の国事行為等)
第6条 天皇は、国民のために、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長である裁判官を任命する。
2 天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の国の公務員の任免を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 全権委任状並びに大使及び公使の信任状並びに批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。
3 天皇は、法律の定めるところにより、前二項の行為を委任することができる。
4 天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の進言を必要とし、内閣がその責任を負う。ただし、衆議院の解散については、内閣総理大臣の進言による。
5 第一項及び第二項に掲げるもののほか、天皇は、国又は地方自治体その他の公共団体が主催する式典への出席その他の公的な行為を行う。
(摂政)
第七条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
2 第5条及び前条第四項の規定は、摂政について準用する。
(皇室への財産の譲渡等の制限)
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が財産を譲り受け、若しくは賜与するには、法律で定める場合を除き、国会の承認を経なければならない。

スポンサードリンク
日本国憲法改正草案 自由民主党 平成24年4月27日

天皇の何が変わったのか

天皇は、日本国の元首であり

 元首は「国を代表する人」と考えて良いでしょう。日本国憲法には「元首」という項目はなく、「国の代表(元首)は天皇なのか総理大臣なのかという議論もあるようですが、一般庶民にはあまりピンとこない感覚です。昨日終了したG20では総理大臣が日本の代表でしょうし、どこかの国王が来日した時は天皇が代表として受け入れるわけですから、「時に応じて2人が分担する。」で何も問題はありません。それが、改正案では「天皇が代表です。」と明確にしたわけです。
 一方で、「象徴」としての立場は変わることがなく、実質的な権力は何一つ持たないという従来の立場は変わっていません。要は名前だけつけたということでしょうか。
 ただ、若干気になるのが、戦前の第日本帝国憲法には「天皇ハ國ノ元首ニシテ」という文言があり、戦前回帰と言われても仕方のない面もありそうです。
 実は変えず名をつけて、右翼の方も納得できる折衷案でしょうか。

国旗は日章旗、国歌は君が代。
日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。

 国旗・国歌に関する法律が憲法に格上げされました。ここはいわゆる左翼の方は抵抗あるのかな。すでに定着している旗であり歌ですから、いまさら賛成も反対もないのですが、これを憲法に明記することの是非は考えなくてはいけません。
 国際社会の中で他国の国旗や国歌を尊重しない態度はかなり思い罪として糾弾されることを考えると、自国の旗や歌を尊重するのは当然といえば当然のことです。スポーツだって相手国の旗を踏みつけたり国歌斉唱の時にブーイングするなどは許されない行為ですからね。
 しかし、「尊重しなければならない。」という文言は、国民の義務が増えたという意味では大問題ともいえそうです。

元号は、法律の定めるところにより、皇位の継承があったときに制定する。

 元号についても法律から憲法へ格上げしました。平成天皇の生前退位についてはここに明示していません。個人的には天皇だって生身の人間ですから、「死ぬまで仕事しろ。」という奴隷以下のような仕打ちはどうかと思ってます。その意味で上皇さまの一連の問題提起は無条件で賛同しています。皇室典範特例法を特例にしないでもらいたいものです。(皇位継承の期日前に天皇が亡くなったらどうしようと、一市民のわたしは恐れておりました。今はホッとしています。)
 それはともかく、元号はいままで元号法でいいのではないかと思ってます。

助言・承認→進言

元首たる天皇に対して「助言」「承認」は上から目線で失礼ということなのでしょう。「進言」とはうまい言葉を持ってきたものです。でも、天皇を尊重する気持ちはありますが、我々国民が主権者ですからそこまでへり下る必要があるのかどうか、そこは疑問も残ります。

それ以外のところは多少の文言の変更はあっても、実質的に内容は変わっていないので議論の必要はないでしょう。

まとめ 天皇の役割は変わらないが

天皇の役割や権限は何も変わっていない改正案ですが、第1条の名称に「主権在民」という言葉が無くなり、「元首」という地位が復活し、内閣も「進言」という低姿勢な態度になり、全体として天皇の地位が向上した感があります。また、国旗・国歌や元号が法律から最高法規である憲法に格上げされて登場したことなど、「中身は変えないけど意識を変えたい」と言える改正案です。

みなさんは、この改正案をどう判断しますか?もしかして国民投票があるとしたら、賛成?反対?ここはよーく考えましょう。

スポンサードリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする