日本国憲法と自民党改憲案を確認する 1 前文

たいていの法律には「前文」があります。日本国憲法にも当然ながら存在します。この前文というのが、実は法律制定の理念が語られており、決してスルーできないところなのです。今回の自民党改正案でもずいぶん変わってますから、まずはここからしっかり確認しましょう。

このシリーズ作成にあたって(共通なので一回読んだらスルーして!)

 自民党の憲法改正案が出されたのが平成24年。すでに6年前になりました。あれからいろいろな議論があったようですが、正直言うと一般市民のほとんど(含む私)は改正案をしっかり読んでいないでしょうし、そもそも憲法だってちゃんと読んだことなどありません。その後、公明党への配慮などもあり、かなりトーンダウンした「改憲4項目」が平成30年の自民党大会に出されました。
 ここでは、現行憲法と「改憲4項目」の前に出された平成24年版自民党の改正案を比較しながら、自民党の目指す未来を理解し、何が素晴らしいのか、何がヤバイのかを見ていこうと思います。
 ちなみに、私は「政権交代がないと政府が腐るのは否めない。」という理由で反自民ですが、自民党の政策そのもに全て反対しているものでもなく、このシリーズもできるだけ公平に見ていきたいと思います。
 とは言え、人によって「こだわる部分」と「スルーできる部分」は微妙に異なりますので、全てを公平にというわけにはいかないかもしれませんが、そこはご勘弁を。

1 前文を比較してみよう

現行の日本校憲法前文は

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

日本国憲法

大雑把に要約すると
◯主権は国民であり、国政は国民の信託による。
◯戦争しないで自由と平和を守る。また全世界の自由と平和に貢献する。

長い割には言ってることはシンプルです。

自民党の改憲案を見てみよう

 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を尊重する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末長く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

日本国憲法改正草案 自由民主党 平成24年4月27日

2 新たに盛り込まれたもの

「天皇」という言葉を挿入

「国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって」

 憲法そのものには「天皇」の位置付けやその役割が明示されていますが、これまでの前文には天皇について何も触れられていませんでした。「天皇を戴く」という表現がうやうやしいですね。前文にも入ってきたことで、天皇を大切に考えているという意思が伝わります。ここは賛否両論あるでしょう。

日本という国の説明が入ってきた

日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、

 ここに入れるのが適切かどうかはともかく、長い歴史を固有の文化があることは誇ってもいいこと。

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我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、

 戦後すぐにはこんなことは書けなかった筈ですが、あれから日本もひとまず先進国の仲間入りをしたのは事実。その役割をしっかり果たそうという気持ちでしょう。ここは現行憲法の前文とも趣旨に整合性はあります。

国民のやるべきことが激増!

国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、

家族や社会全体が互いに助け合って

自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。

良き伝統と我々の国家を末長く子孫に継承する

 これまでは、「自由と平和を守る」ということしか語っていなかった前文です。驚くべきことに「日本国をどうする。」ということすら語っていませんでした。
 改正案では、国に誇りを持って守り、成長させることが明示されました。ある意味「平和と自由」しかイメージできなかった日本の具体的に進む道を示したとも言えますね。
 しかし「家族」の存在や「教育」「科学技術」「経済活動」という具体的な項目まで盛り込まれています。これを盛り込むことが妥当かどうかは意見の分かれるところです。特に「家族」については、13条で「個人として尊重される」から「人として」に変更されており、「個人の自由や権利」をあまり好ましく思っていないのかとも勘ぐりたくなります。

まとめ 「平和と自由」から「規律と発展で国を守る」へ

 もちろん平和と自由は盛り込まれているからご安心ください。でも、現行の前文が
「とにかく戦争を反省して政府の言いなりにならないように国民が主権で自由と平和を守るのだ。」
という戦後の空気を繁栄したものであるのに対し、自民党の改正草案は、
「自由と平和はもちろんだが、もっときちんと国に誇りを持ってしっかり発展させようよ。規律を持ち助け合い、頑張って国をまもらなくちゃね。」
という国民の役割を明確にしました。

 これを、「うん、わかりやすい。こうすればいいのね。」と賛同するか、「国が国民の意識や行動を縛っていいのか?」という息苦しさや戦前の国家統制の臭いを感じてしまう人もいるでしょうね。

賛成も反対も国民の自由。改正するもしないも国民の意思。みなさんはどう判断しますか?

つづく

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