日本国憲法と自民党改憲案を確認する9 第8章 地方自治

写真は木曽町役場 これはイメージであり、文章との直接の関連はありません。

私たちの生活に直結する地方自治は、憲法にも基本的な考えが記されていますが、改正案では内容が倍増しました。何が増えたのか、私たち住民に直接関係する項目は何かを見ていきましょう。

シリーズ作成に当たって(共通なので1回読んだらスルーして!)

自民党の憲法改正案が出されたのが平成24年。すでに6年前になりました。あれからいろいろな議論があったようですが、正直言うと一般市民のほとんど(含む私)は改正案をしっかり読んでいないでしょうし、そもそも憲法だってちゃんと読んだことなどありません。その後、公明党への配慮などもあり、かなりトーンダウンした「改憲4項目」が平成30年の自民党大会に出されました。
 ここでは、現行憲法と「改憲4項目」の前に出された平成24年版自民党の改正案を比較しながら、自民党の目指す未来を理解し、何が素晴らしいのか、何がヤバイのかを見ていこうと思います。
 ちなみに、私は「政権交代がないと政府が腐るのは否めない。」という理由で反自民ですが、自民党の政策そのもに全て反対しているものでもなく、このシリーズもできるだけ公平に見ていきたいと思います。

現行の憲法で地方自治は

第八章 地方自治
〔地方自治の本旨の確保〕
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
〔地方公共団体の機関〕
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
〔地方公共団体の権能〕
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
〔一の地方公共団体のみに適用される特別法〕
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

日本国憲法

憲法には、ほんとに基本的なことしか書いていません。これはもう改定の必要がないくらいのものです。問題は何を加えるかですね。実際自民党の改正案では、字数が倍増しています。

自民党改憲案の地方自治

第8章 地方自治
(地上自治の本質)
第92条 地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。
(地方自治体の種類、国及び地方自治体の協力)
第93条 地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。
2 地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
3 国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。
(地方自治体の議会及び公務員の直接選挙)
第94条 地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
2 地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。
(地方自治体の権能)
第95条 地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
(地方自治体の財政及び国の財政措置)
第96条 地方自治体の経費は、条例の定めるところにより課する地方税その他の自主的な財源をもって充てることを基本とする。
2 国は、地方自治体において、前項の自主的な財源だけでは地方自治体の行うべき役務の提供ができないときは、法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない。
3 第83条第2項の規定は、地方自治体について準用する。
(地方自治特別法)
第97条 特定の地方自治体の組織、運営若しくは権能について他の地方自治体と異なる定めをし、又は特定の地方自治体の住民にのみ義務を課し、権能を制限する特別法は、法律の定めるところにより、その地方自治体の住民の投票において有効投票の過半数の同意を得なければ。制定することができない。

自民党憲法改正草案

何が変わったのか 増えたのか

「住民の参画を基本とし」
「提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う」

これまでなかった「住民の義務」が挿入されました。
役所まかせにしないで、自分たちで頑張れと言われちゃいました。
また、負担を分担しなさいという指示も出てきました。これって、地方税を払うだけの問題ではないようです。最近流行の「自助努力」というのが地方自治にも求められているということなのでしょう。地方自治体への交付金などが減額されることの予兆とも見て取れます。

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国及び地方自治体は協力しなければならない
地方自治体は、相互に協力しなければならない

協力しなさいって、いったい何を言いたいのかよくわかりません。別に協力の必要がないというつもりはありませんが、憲法で「協力しなければならない」ということばに多少の違和感を覚えます。そういえば、第3章で
「家族は助け合わなければならない」
という言葉も挿入されてましたね。

日本国籍を有する者が直接選挙する

「住民には義務と権利がある」の住民の中には、日本国籍を持たない人もいるでしょう。その方々も一定の義務を果たせば恩恵を受けられるというのは、当然のことでしょう。もし外国人に何も恩恵がないなら、一切の税(消費税も含めて)を支払う義務はなくなりますから。
そのことと、議会への選挙権は日本人であることは、分けて考えるべきでしょう。「住民として税を納めているのだから、平等に選挙権」というのも理解できるし、「あくまでも日本としての方針を決め、その結果として外国人も権利を有する」というのも矛盾はなさそうです。個人的にはこれで良いのかと。

地方税その他の自主的な財源をもって充てること

地方の自助努力をここでも明記しています。どうやら国は地方自治にお金を出す気がない模様ですね。国は、地方自治で回らない場合に措置をとるということになってます。基本はあくまでも地方の自助努力なのですね。
それなら地方税を大幅に値上げして、その分国に入る収入を減らしてもらってもいいです。というより、そうしてくれた方が妙な利益誘導政治ともお別れできそうな気もしますね。

特定の地方自治体の住民にのみ義務を課し、権能を制限する特別法は、有効投票の過半数の同意を

すごいですね、これ。義務を課して権能を制限する特別法も、賛成多数ならOKということなのですね。実際に条例のひとつひとつについて住民投票などしていないわけですから、下手をすると議員の過半数で可決されるという恐れがおりそう。

まとめ さりげなく恐ろしい改革が行われる予感

「国は地方自治にお金を出さないから、自分たちで頑張りなさい。住民も行政サービスにおんぶするだけでなく、協力し、参画し、その権利に見合う義務を果たしなさい。負担もしなさい。それでもダメなら国が援助しましょう。それから、場合によっては義務を増やして権利を制限する特別法もあるから、可決されたら従いなさいよ。」
ということを言ってるわけですね。
消費税を10%にして、その分「苦しい人には6万円あげるよ、子供の養育費無料にするよ。」」とガッツポーズしていますが、憲法改正案を見ると、地方を突き放した思想が見え隠れしています。
それを推し進めるなら、それに見合う地方自治の予算措置と権能の強化が必要でしょう。それはつまり、国の予算及び権能の制限にもつながるはずなのですが、自民党はそれで良いと思っているのでしょうか。

もし、国の予算と権能を強化しながら地方は勝手に自分たちでやってろというのなら、何のための政治なのでしょうと怒りが湧いてきます。

都道府県や市町村は、ふるさと納税でお金の取り合いをするのではなく、この改正案を盾に国から予算をぶんどる気概を見せて下さい。国にお金を持たせないようにしましょう。

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