自民党改憲案(H30年)4項目を確認する

こちら改憲賛成派(美しい日本の憲法をつくる国民の会)
こちらは改憲反対勢力(5・3憲法会議)

 これまで12回に渡り、日本国憲法と自民党憲法改正草案(平成24年度)を比較してきました。自民党の基本的な考えはおおむね理解できたと思います。
 しかし、連立与党には公明党もいるわけで、こちらの意向を無視するわけにはいきません。その意味では公明党が一定の歯止めになっているのは事実でしょう。(どうせ歯止めになるなら野党でいればいいのに、と思ってしまいますが。)

ここでは、平成30年の自民党大会で提案された(と思われる)「改憲4項目」を観察し、平成24年度に自民党が頑張って作成した草案と何が変わったのかを見ていこうと思います。

なお、条文は自民党のHPで見つけることができなかったので、産経新聞WEB版(2018.3.25 )を参考にしました。

項目1 自衛隊

(9条の条文は一切変えず、2を追加)
第9条の2
(第1項)前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
(第2項)自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

平成24年度版では、国防軍という言葉が出てきましたが、どうやら却下されたようですね。

「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という9条の1の文言はそのまま維持して、それでも「自衛隊」を明記するあたり、若干苦しいなあと感じます。私の個人的な賛否はともかく、矛盾が生じないように「武力は持つのだ」と言い切った方が、国民投票する側もわかりやすいと思うのですが・・

おそらくこの改正でも「集団的自衛権は自衛の措置に含まれる」ということなのでしょう。
しかし、最後の「国会の承認その他の統制」の部分です。その他の統制とは何なのかを明確にしたいところです。

「その他の」を、どう解釈するのか

第2項 緊急事態

 第64条の2
大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

第73条の2
(第1項)大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
(第2項)内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。

 24年度の改正草案では、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等のよる大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」となっていましたが、「大地震その他」という簡単な言葉にまとめられました。また、「緊急事態の宣言中は国民の権利が一部制限され得る」という言葉もなくなってしまいました。
 では、「外部からの武力や内乱」は含まれないのかというと、「その他」という言葉の運用でどうにでもなりそうです。

また「その他」が出てきた

第3項 合区解消

第47条
 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

第92条
 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。

 ここでは、平成24年度の改正草案になかった項目が突然出てきました。

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 これまでは「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」としかありませんでしたが、参議院選挙では各県から必ず一人は出せるようになりました。
 これは、一人区を確保することで与党が圧倒的に有利になることを目論んでるとしか思えない変更。個人的には「参議院は目先の利害関係やブームに流されず、ちょっと冷静に日本全体を俯瞰して衆議院の偏りを正す。」というのが存在意義だと思っているので、ここは「関東、中部、近畿」など広域選挙区から数人選ぶ方式にして欲しいところです。その方が死に票が少なくなります。もちろん死に票が少ないということは、どの党も一定の数を保つわけだから、反対ばかりでは何も進まないという事態も想定されます。でもそこを頑張るのが衆議院でしょう。

これは与党の選挙対策に見えるから、反対!

項目4 教育の充実

第26条に3項を追加して
 (第3項)国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。

 第89条
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

26条の3は、平成24年度版では「国は、教育が国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない。」でしたが、ずいぶんとボリュームが増したものです。まあ、特に問題はありません。

89条については、「財政」のところでも触れましたが、監督が及ばないなら、どんな団体にも支出してはならんでしょう。政治団体もスポーツ団体もNPOも、全てです。国の予算を出すからには一定の監督は必要です。なぜ「慈善、教育、博愛の事業」に限定するのでしょうか。そもそも「博愛の事業」とは何なのでしょうか。「監督が及ばないから支出をストップしようとしたら、博愛の事業ではなくヘイト団体だった。憲法には違反してないから支出は続けた。」なんてことになるのでしょうかってことですよ。

「おいおい、それは飛躍しすぎ」と思うあなた。行政って、そんなとんでもないことを「ルール条排除する法律も条例もないから、何もできない。」と行ってスルーしてきたトンデモ事案の十や二十、聞いたことがあるはずです。彼らは規則とハンコがあれば道義的におかしいことでもやらかします。信じてはいけません。

まとめ 24年度自民党改正草案から見ると

 自民党が最終的には24年度版を目標にしていることは間違いないでしょう。(自民党HPに資料として記載されてますから。)その第一歩としてかなり譲歩した内容を持ってきました。「天皇が元首である」とか「家族は助け合え」とか「国防軍」「非常事態では権利の制限もある」「日の丸君が代を尊重せよ」「地方自治は予算も含めて自助努力でなんとかしろ」などなど、ここまで開き直るとギャグじゃないかと思える内容は影を潜めました。

 それでも「自衛隊の明記」はどうしても譲れないようで、「国防軍」の名前を自衛隊に戻してきました。残りの3項目は、9条単独では賛成が得られないと考えて付け足したくらいの感覚かもしれません。とはいえ、憲法について議論すること自体は悪いことではありません。反対にしても議論を進めるべきでしょうね。

 野党の中には「憲法よりもすべきことがあるだろ。」と主張しているところもありますが、数々の課題を並行して議論するために「なんとか委員会」があり、そのために無駄に議員が多いわけですから、もっと大切なことも議論しながら、これはこれでやっていくべき。そのかわりに野党が思う「他にやるべきこと」も同時進行で進めたらいいです。こんどは与党もきちんとそれを受けなければ片手落ちになりますけど。

 もうすぐ参議院選挙の結果が出ます。結果がどうであれ、野党は憲法の議論もしっかりやる。与党は年金問題から逃避しないでちゃんと議論する。そんな発展的な国会になることを祈っております。

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