三権分立が(一応)確立している日本では、司法(国会)、行政(内閣)とともに国の根幹を成す制度です。でも、三権の中では一番地味かもしれません。今回の改正案でも、大きな変更は見られません。
シリーズ作成に当たって(共通なので一回読んだらスルーして!)
自民党の憲法改正案が出されたのが平成24年。すでに6年前になりました。あれからいろいろな議論があったようですが、正直言うと一般市民のほとんど(含む私)は改正案をしっかり読んでいないでしょうし、そもそも憲法だってちゃんと読んだことなどありません。その後、公明党への配慮などもあり、かなりトーンダウンした「改憲4項目」が平成30年の自民党大会に出されました。
ここでは、現行憲法と「改憲4項目」の前に出された平成24年版自民党の改正案を比較しながら、自民党の目指す未来を理解し、何が素晴らしいのか、何がヤバイのかを見ていこうと思います。
ちなみに、私は「政権交代がないと政府が腐るのは否めない。」という理由で反自民ですが、自民党の政策そのもに全て反対しているものでもなく、このシリーズもできるだけ公平に見ていきたいと思います。
現行憲法での司法は
第六章 司法
〔司法権の機関と裁判官の職務上の独立〕
第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
〔最高裁判所の規則制定権〕
第七十七条 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
〔裁判官の身分の保障〕
第七十八条 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
〔最高裁判所の構成及び裁判官任命の国民審査〕
第七十九条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
〔下級裁判所の裁判官〕
第八十条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
〔最高裁判所の法令審査権〕
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
〔対審及び判決の公開〕
第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。日本国憲法スポンサードリンク
司法は法にのみ支配され、行政に屈しない独立性を保障されでいます。だから行政によって報酬の減額をされることもありません。そんな立場の機関が存在することは、日本の将来を決定づける場面が起きた時には頼りになるかもしれません。大事にしたいところです。
自民党改正草案のマイナーチェンジ
79条の2 最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。
79条の5 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、分限又は懲戒による場合及び一般の公務員の例による場合を除き、減額できない。
それまで10年に一度だった審査が、別の法律に定めることになりました。その法律がどうなるのかは、ここではわかりません。それから、報酬についても「分限や懲戒の場合を除く」という項目が追加されています。ある意味司法の独立性を脅かす(というか締めつける)内容にシフトしたとも言えますが、とんでもない裁判官でも10年は報酬つきで懲免もされないというのもおかしな話で、ここは仕方がないともいえます。
まとめ 裁判官は大切な存在
衆議院選挙の時に、「裁判官の審査」がありますよね。あれ、深く考えずに◯つけちゃう人が結構いるという話も聞きます。特に怒りをもって「その判決違うだろうが!」と感じることがなければ、スルーしましょうね。
そう言えば、隣の国では徴用工問題での司法判断が今の冷戦状態の発端でした。それが国民感情に迎合した(身を守った)選択だとしたら残念な話ですが、「司法の判断は尊重すべき」という政府の見解も、まあその通りです。
問題は、国際法や条約、二国間で妥結したものをひっくり返したら、怖くてその国の政府と交渉できなくなっちゃいます。さて、ここはどうしたものでしょうか。
例えば高裁で「自衛隊は違憲だからすぐ解散せよ。」なんて出したら政府はどうする?「沖縄米軍基地は不当占拠だからすぐに立退け。」と出したら、政府は法に従い強制退去させちゃうのでしょうか。そう考えると、司法の独立性というのはある程度国内向けに限定される側面もあるのかもしれません。
今回の憲法改正案では、司法にはそれほど踏み込んでません。それは、司法の役割が変更の必要がないくらい確立し、役割を果たしていると言えるのかもしれません。しずれにしても、我々も少しは注目していく必要がありそうです。